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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

とつぶやいた。

素子の顔に、面白そうな皮肉な輝きがうかんだ。

「そりゃ蜂谷さんたちは学者なんだから、うっかりソヴェト同盟へなんか行けないさ」

学者というところに、あるアクセントをつけて素子は云った。

「――お勤め先の関係で?」

「そんなことじゃないさ――ねえ、そうでしょう?」

正体をかくしたまま、鋭いものをふくんで迫る素子の語調を、蜂谷は少し不愉快そうにかわした。

「行けないと、きまったもんでもないさ」

「そりゃそうでしょうがね――蜂谷さんは今でも、中共も意味があり、蒋介石にも役割があるっていう論法ですか」

そういう風に質問が展開したのは伸子に思いがけなかった。同様に蜂谷としても予想しなかったらしく、

「――いやによくおぼえているんだな」

てれたようだった。

「少し失礼な云いかたかもしれないが、あなたがた学者とか教授とかいう人たちは、思ったより、ほんとの知識欲ってものはうすいもんなんですね。外国へ来て見て、留学中と称する諸先生にあって、しみじみそう思うなあ。みんな、これまでの自分のもちものに、ちょいと何か無難な新知識をつけ足すだけで、本当に人生観が新しくなるとか、これまでの考えかたをすっかり変えなけりゃならないかもしれないような冒険は、こっそりさけている。