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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子は、万一そういうことになってはと思って、わざわざホテルの帳場へ玄関番をよんで、タクシーの運転手にカトリ丸の着く埠頭へ行くようにというようにたのませたのに。――
タクシーからおりて、埠頭のよごれた小さい船を見たとき、伸子はすぐ、わきにいたオヴァー・オールの太った人足に、
「これ、カトリ?」ときいた。
「ウイ・ウイ」
花だの人形だのを腕からぶらさげた伸子は、まっすぐ船腹の真下まで行って、また心配そうに、
「これ、N・Y・Kライン。カトリ?」
ときいた。パイプをくわえた大男の労働者は、伸子の様子を見おろして、興がったような同情的な笑顔になった。
「ヴォア・ラ・マドモアゼール。カトリ!」
とまっている船の方へ片手のひらを上むけに大きくふりながら、その上甲板を見上げた。
手ぶりにつれて見上げると甲板と甲板との間にはさまれたように馴れない目に見わけのつかない、いくつもの顔が並んで、波止場を見おろしている。
伸子は、その人の姿の間に、日本服を着た女の上半身を認めたように思った。それは、多計代でも、小枝でもない、別の日本の女のひとだった。しかしそれで元気を得た伸子は、一心に首をもたげて、横歩きしながら上甲板の端から見えている一つ一つの顔をしらべて行った。