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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
六 わかめ売り
七 わらびと竹の子
六 わかめ売り
「わかめはようござんすかねえ。」
そう言って呼んでくる声を聞くようになりますと、さすがに山家もいい陽気に向かいます。越後路からの女のわかめ売りの声です。紺がすりの着物に、手甲をはめ、荷物をしょった行商姿の風俗の女がいく組も来て、遠く越後のほうでとれた海草を信濃の山の上まで売りに来ます。五か月もの長い冬を通り越したあと、ふるい野菜はすでに尽き、新しい野菜にはまだ早いという四月のころには、わたしたちはこのわかめ売りの来るのを待ち暮らしているようなものです。さんしょの芽の青くもえ出す時分になって、においのいい田楽なぞをかいでみる心持は、山の上の冬ごもりをしたものでなければわかりません。
そういえば、木の芽が田楽になり、竹の子がすしになり、よもぎがもちになるころは、そこいらはもう桃やすももの花でいっぱいです。
七 わらびと竹の子
小諸の竹の子は、鴇窪という近在のほうからくるわらびを見て笑いだしました。小諸にはこんもりとした竹の林と言えるほどのものはほとんど見当たりません。真竹、孟宗の類は、この地方には十分に成長しません。でも、細い竹のやぶがありまして、春先にはそこから細い竹の子が頭を持ち上げます。