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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
五 牛の先達
陸にも、水にも、いっちょうらですぜ。」
こうかわずは言って、土の中から出て行くせみのうわさをしました。
たしかにねずみやありの言うように、せみの思い立っていることは冒険にそういありません。しかし、このせみはまだ若くて、光を求めずにはいられなかったのです。そろそろ穴からはいだして、思いきって古いからをぬぎすてた時は、まだ高い声で鳴くことも知らず、木と木の間を飛び回ることも知りません。にわかに明るいところへ出て見ると、目もくらむばかり。新しく生まれたばかりのせみは、青いすきとおるような羽もまだ弱くて、ただただ静かにそこいらをはい回りました。
五 牛の先達
朝に晩に、いい牛乳をお得意先のぼっちゃんやおじょうさんにごちそうするばかりでは、牛もつかれます。そこで小諸在の小原というところにかわれている牛は、ご主人の牛乳屋さんに連れられ、牛小屋を出て、烏帽子が岳のふもとにある牧場をさして骨休めに出かけました。
そこは信州小県郡の山奥にありまして、一回りすれば二里もあるほど広々とした大牧場です。西の入の沢ととなえる谷かげにおじいさんの牧夫が住んでいまして、牛をあずかってくれます。