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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

そろそろほかの牛なかまのほうへ近づいて行くようになりました。向こうの山の傾斜のほうには、寝たり起きたりして遊んでいる牛の群れも見えます。おじいさんの牧夫がなたやかまの類を入れた「山ねこ」というものを背中にしょいながら、西の入の沢から登ってくる時は、きっと塩のごちそうをしてくれるものですから、黒い小牛がまずそれを見つけて耳をふりながらやってきます。額の広い目つきの愛らしい赤牛や、首の長いぶちなぞもそろそろやってきて、頭をふったりしっぽをふったりしながら、塩のほうへ近づいてきます。そこへおなじみの薄い小原の牛でしょう。ほかの牛なかまはみな、「うさんくさいやつが来た」と言わないばかりに、すぐにはいっしょにごちそうにありつこうともしません。いずれもそのまわりを遠巻きに巻いて、じりじり寄ってくるものばかりでした。

どうしてこんなにほかの牛なかまが用心ぶかくするかと言いますに、小原の牛は色も黒く、牝牛ながらにりっぱな体格で、どことなくやさしいうちにも威のある目つきをしていたからでした。

いったい、その牛なかまは、強い牛は強い牛と集まり、弱い牛は、弱い牛と組を立てているようですが、あらたに外からはいってきた牛は、どんなにこちらで仲よくしたいと思いましても、いきなりそのなかまには入れてくれません。