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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

九 玄関番

いずれももはや若いおっかさんらしい人たちになっていました。あかあかと燃え上がる炉の火が一同の顔に映るようなところで、東京の吉村さんたちのうわさがいろいろ出ましたっけ。

この房州行きには、わたしも誕生寺を見るだけにまんぞくしました。日蓮が青年時代を送ったという清澄山までは行きませんでした。

九 玄関番

恩人、吉村さんの家といえば、わたしが少年期から青年期にかけての日を送ったところです。お話のついでに、自分の書生時代のことをここにすこし書きつけてみましょう。

吉村のおじさんは交際の広い人でしたから、いろいろな客がおじさんの家へたずねてきましたが、その中でも玄関からはいってくる人と、勝手口からはいってくる人とありました。勝手口からたずねてくるのは、おもに内わの人か、前だれがけに角帯をしめた日本橋大伝馬町へんの大店の若者か、芝居の替り目ごとに新番付を配りに来る芝居茶屋の若い衆か、近くの河岸に住む町家のおかみさんや娘などの人たちでした。

「行徳」

と声をかけて、毎日行徳方面からおさかなをかついでくる男が荷をおろすのも、その勝手口でした。

玄関からたずねてくる客は表口の格子をあけてはいりまして、取り次ぎを頼むのですが、その応接がわたしのつとめでした。