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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

加山殿の苦衷もお察しする」

羅門のさばきは、いつも奥床しかった。得手勝手な東儀与力とは、その実力はもちろん、人格においても、雲泥の差である。

加山はひそかに、こういう立派な人物を上役に戴いて働いたなら、どんなに、働きがいがあるだろうと思った。

が――東儀のこじれた気もちはまだ納らない。

「加山ッ」

「は」

「は、じゃあない。何をぼんやりとしているのだ。もう組下の者さえ先に手配に廻っておるではないか。早く善後策を講じて、郁次郎めを引っ捕えて来い」

「はっ」

「郁次郎を召捕らぬうちは、断じて、奉行所に帰って来るな」

「……ご免」

と、悲痛に、無情な上役へ向って、低く会釈をすると、加山は、冷たい十手と捕縄をつかみ直して、何処と、あてどもない夕闇の街へ、いっさんに、駈け出して行った。

その、うしろ姿を見送って、東儀はすぐに、

「この上は、花世の方を」

と、羅門を眼で促した。

「そうだ、郁次郎が逃げたと知ると、あの鳥も、逃げるかも知れぬ」

二人は、踵をめぐらすと、再び、富武家の門前へ、急いで、引っ返して来た。

見ると、一挺の駕がそこに横着けになっている。二人はハッとしながら、