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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

闇・闇・また闇

深い穽へでも墜ち込むように、彼女のすがたが、闇を泳いだ。――とたんに、辺りに居残っていた四、五人の捕手が、ばらばらと寄って、その取り乱れた美しさを、無残に引ッ掴んで、

「御用!」

と、呶鳴り浴びせた。

「それっ」

と、東儀と羅門とは、すぐその一塊りの人影を急き立てたが、同時に、うしろで、異様な物音がしたので、はッとして振りかえって見ると、

「ウウーム……」

と、五百之進が前伏せに苦悶して仆れていた。

闇・闇・また闇

「ヤ、ヤッ、これは!」

「ご、ご両所。……」

と、五百之進は、血みどろな片手を上げて、ふたりの影を、拝むように振りうごかした。自殺たな! 直覚に、そう見た二人は、意外そうな眼いろを見合せた。五百之進は、脇差の切ッ尖をふかく左の腹部に突き立てて苦悶していた。その紫いろの痙攣を、前歯で、じッと噛みしめていた。

「お、おねがいでござる」

「自害とは、短気な。五百之進殿! しっかりなさい!」

「……おねがいでござる、ご両所。……む、娘を」

「えっ」

「見のがしてやって下さい。これには、深い仔細があること。そ、その……仔細を言えぬあの娘じゃ、弱い、この父親じゃ。時節が来れば何事もわかる。