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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

羅門氏、東儀殿、武士の情けです。見のがしてやって下さい」

「ウーム」

と、東儀もさすがに、死をもって、子の破滅を救おうとする親心の前には、太い息をついて、腕を拱んでしまった。

羅門は、さも同情に堪えぬように、

「ああ、ご無理もない」

と、横を向いて、暗涙を拭った。

そして、低い声で、

「東儀殿、見のがしてやったらどうだ」

と、囁いた。

そう言われると、東儀は、捕縄役人の冷厳な本心が、かえってピクリと醒めて、

「いや! 断じて相成らん。――切腹してまで、子を助けたいというのは、なおさら花世に深い秘密のある証拠ともうけとれる」

さすがの羅門も、呆れたように、

「貴公は怖ろしい法の権化だ」

と、呟いた。

「いかにも、十手をとる以上は、飽くまで私情を殺さねばならぬ。花世の罪科が明白になれば、五百之進殿も、当然、切腹の運命は遅かれ早かれ来るものに決まっておる。――見のがすなどとは、もってのほかだ」

五百之進は、俯つ伏せていた顔を、がばと上げた。もうその顔は、青い死相に変っていた。逆手につかんでいる脇差のつばが、がたがたと顫いて、板縁に鳴った。

「で、では、これほど、お縋り申しても」