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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

しめた! と耀蔵はその浮き腰を蹴とばした。八弥の十手は、男の頬骨をイヤというほど撲りつけた。

よほど強情な人間とみえて、それでも男は、わッとも、すッとも言わなかった。二人は呼吸を弾ませながら、男をがんじ絡めに縛り上げておいて、番屋の者をよび、鎧櫃と三本錐をかつがせて、急いで、一たん奉行所へ引っ返した。

そしてすぐに、報告だけをしておいて、二人はまた捕縄供養の席へ、出直すつもりだったが、短い道のりを、駕で飛ばしている間に、耀蔵は頭がふらふらとして来るし、八弥は、薄黒くあせた唇を噛みしめて、意識さえ、あやしくなる。

奉行所の医者に、熱い薬湯の茶碗を手に持たせられ、喉を焼かれるように感じた時、ハッと気がついてみると、八弥は自分の体も、側にいる耀蔵も、白い布に巻かれて、蘇鉄のようになっているのを見た。駕にのるまで、さほどに感じなかった三本錐の傷が、腕や股に、ずきずきと激痛の脈をうつ。

「気がついたか」

前を仰ぐと、吟味所の床に、奉行と与力がいる、書記が机をひかえている。獄吏が六尺をかかえこんで取り巻いている。――そして、鎧櫃と、三本錐の兇器を、怨めしげに睨みながら、百姓男は、棒立ちに、立っていた。