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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
と、誌してある。
扉もまた、それから先に、国家の大罪人でも入れてあるように厳重だ。――がしかし、
「開けい」
郷左衛門が一声呼ぶと、左右の部屋から、屈強な侍が、ばらっと出て、すぐそこを開けて両方に膝まずいた。
「変りはないか」
「は。べつに」
鷹揚に頷いて、ついと、闇の中にはいった。
土蔵の中みたいである。隅に、上から落ちて来る光線が月のように見える。そこに鉄の梯子がかかっていた。
老公のいる含月荘の高楼は、この四層めの一室だった。三つの鉄の梯子を登って、国家老の大村郷左衛門は、やがて、いちばん上の一室へ畏る畏る伺候した。
「ヘヘッ」
と、次部屋の襖ぎわに手をついた途端から、彼はもう地上の人間とは別者みたいに変っていた。
「――大殿、大殿。お召しの郷左衛門めにござりまするが、お襖を開けても苦しゅうござりませぬか」
「郷左か」
と、温雅な老声が聞えた。
「はいれ」
そーっと、音もなく襖を開けて、郷左衛門は、ぺたりと、遥かに退がったまま、
「いつもながら、麗わしいご機嫌を拝しまして、郷左、何よりもうれしく存じ上げまする」
「人間も、天空におると、健やかになるの」
老公は膝にあまるくらいな美事な白髯を、童児のような美しい掌でまさぐっておられた。