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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
鈴慕の曲
彼の捕術の恩師、江漢老先生。
彼の刎頸の友たる同じ南の同心加山耀蔵。
その人々は、その夜、どんな夢も見なかったであろうか。夢、夢、せめて夢にでも通え!
彼の無念極まるこの最期を、彼の味方に告げるものは、夢よりほかには頼みがない。
鈴慕の曲
江戸の笛師殺し、江の島の巫女殺し、指切りの殺人魔と目されて、遂に、江之島神社の境内で召捕られた塙郁次郎は、何故か、すぐに江戸表へは護送されなかった。
島役所の納屋蔵は、さしずめ、彼の仮吟味所となった。郁次郎は毎日毎夜、東儀与力と羅門塔十郎のふたりが交代になっての調べに、拷問され続けていたのである。
四日――五日――七日と――
相手は、交代して休息するが、郁次郎は少しも寝かされなかった。夢、うつつである……。そして割竹の苛責、折れ弓の拷問。
皮肉はやぶれ、精神はもうろうとなってしまった。
「しめた! 自白したぞ」
明け方から根気よく、納屋蔵に籠って責めていた東儀与力は、口書を引っ掴んで、羅門のいる役室へ飛び出して来た。
「なに、自白したと」
と、羅門も緊張して乗り出した。
「ム。ずいぶん強情な奴だが、とうとう笛師のお雪を殺害したのも、巫女殺しも、みな自分の所業だからはやく死罪にしてくれと泥を吐きおった」