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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

――なに、花世さんもご一緒か、これはいよいようれしい」

「これ花世、何が恥しい、こちらへ参って、ご挨拶を申さぬか。――どうも、いつまでも、子供で困る」

「なに、子供どころか、貴公よりは、背丈が高い。それに、しばらく見うけぬうちに、たいそう美人になったのう、あはははは。……何せい、よく訪ねてくれた。――ま、早速だが、見てくれい、わしの建てたこの家を」

人恋しいのであろう、意外な訪問者を迎えて、老人のよろこびかたは非常なものであった。

「……ほう、部屋数が二十七もあっては、たいへんだな。どうじゃ花世、広いものではないか、ウム……眺望もすばらしい」

富武五百之進とは、誰も知る、番町の旗本、四十四、五の年配で、見るからに、几帳面そうな人物。

いわゆる、御番衆というと、いったいに、風儀の悪い方だが、江戸城でも、書院詰のものだけは、悪風に染まず、品行が正しいといわれている。

わけても、五百之進などは、その代表的な人物で、学才もあり、思想も健全で、私行上にも役目にも、かつて曲がったことがない。剛直、竹の節のような性格だった。

――に、ひきかえて、娘の花世は、女性的な上にも女性的な、嫋やかな、可憐な、松の根に咲いた山桔梗にもたとえたいほどに――潔く、ういういしい。