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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
無念をのんで昏倒した時の眉が、ふかい針を立ったまま、仮死状態の青ぐろい皮膚にとッついていた。
「はやくしろ」
と、新七は、頤を拯って、唖といっしょに、石を詰めた網ぶくろを、彼の縄目に幾つも結いつけた。
「それ、いいか……」
手と、脚とを持ち合って、舷から、青い波底へ沈めかけようとした時である。とんと、舟げたの角で、背ぼねを打たれたとみえて、耀蔵は、偶然にも、呼吸をふき甦した。
とたんに、双つの眼を、くわッと開いて、舟のなかの三名を睨みつけたので、
「わっ……」
と、吃驚したため、唖も新七も、同時に、あわてて、手を離した。
どぼッ――と、白い飛沫が低く立った。無数の泡が、いちめんに、もくもくと、音を立てて、舷にはじけて消える。――玉枝は、舟げたにもたれながら、石の重みに沈んでゆく耀蔵の体を美しい魚の影でも見るようにのぞきこんでいたが、突然、
「おやっ? ……」
と、さけんで、顔いろを変えた。
ふしぎ!
耀蔵のからだが、およそ、四尋ほども沈んで行ったと思うと、まっ蒼な海藻のなかから、ぬッと、人間の腕がのびた。そして、いきなり耀蔵の帯をつかんだと思うと、鱶のように、さッと、横へ攫ってしまった。