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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

小箱の女

喧騒が耳を衝つ。弥次馬が、追われる。

そして、足の数が減ると、砂利場の地上に、麻の葉絞りの扱帯で首を縊め殺されている十五か、六ごろの、痛々しい、雛妓の死骸が、うごかない酷さと、冷たい美しさを持って、老先生の眸のなかへ、反射的に、飛びこんで来た。

「これは、塙先生ではございませぬか」

駕の外で、いんぎんにこう言った人物がある。

老先生は、すぐ、その誰人であるかを、声で知って、

「やあ、羅門氏か。――お役目とはいえ、お早いことで」

と、駕から立った。

小箱の女

「――拙者も、今、駈けつけたばかりです」

羅門塔十郎は、検死役人の手帳をのぞきこみながら、

「また、同じ策に、してやられました」

と、かろく、舌打ちを鳴らした。

「同じ策とは」

「ごらん下さい」

と、老先生を、眼で誘って、お半の死骸のそばへ近づいた。――附近を追われた弥次馬たちは、遠くから、

(塙先生だ。鶉坂の先生だ)

と、囁き合っていた。

羅門は、腰をかがめて、友禅の袂の下に隠されてあるお半の左の手を示して、

「また……小指が斬り取られています」

「なるほど」

老先生は、予期していたことのように、

「これで三人めじゃ」