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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「そうです。……例に依って、犯蹟には、何の証拠も残っておりません」

「殺る方も、だんだん熟練して来るとみえる」

「大きに」

と、羅門も、苦笑して、

「手口は、まったく、同じです」

「むろん、巫女殺し、笛師殺しと、同一人であろう。――しかし、これを見ても分るのは、前の犯罪は、郁次郎の所為でないということだ。現在、奉行所の獄中に囚われている郁次郎が、雛妓のお半を、何しに、殺害するいわれがあろう」

「まあ、表面は、そうも見えます……」

羅門は、相変らず、冷静な笑みをもって、老先生のことばを聞き流していた。

「ちょっと、素人考えで申すと、いかにも、獄中にいる郁次郎が、世間へ出て、人を殺すはずはないと思われるが、事実は、たいへんに違います。……あの奉行所の牢獄などは、やり方一つで、いくらも、外部との連絡がとれる。また、金次第では、身分の軽い獄吏などを買収する方法もある。その辺も今調べ中です。ことに、老先生に対して、百日のご猶予をいたした後は、郁次郎の身も、非常に、寛大にしてありますから、手段に依っては、一夜ぐらい、外部へも出られないことはないのです」

「相変らず、貴公も、自信がつよいな」