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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

二度追放

「言いようのないご無礼をして、このままでは心苦しい、お詫びのつもりで」

と、構わずいっしょに歩きだした。

橋を渡って、八官町の旗本町まで来ると、花世は礼をのべて、とある門の袖潜りを静かに開けて、中へ姿を消してしまった。そこはたしかに、大番組御書院方、富武五百之進の邸にちがいない。

「むむ……どうも解せない。あの美しい姿は、いったい一人なものか、二人なのか、何だかおれには分らなくなってしまった。といって……この事ばかりは老先生に訊くわけにも行かないし……」

塀にもたれて、考えこんでいると、奥ふかい邸の木の間からみやびた八雲箏の音が、良人恋しと弾くように洩れてきた。

二度追放

「お! この事にばかり心を囚われていては果てしがない。唖の方の結果も心配だ」

彼は気がついて、大急ぎで、伝馬牢へ引っ返してきた。――詰所をのぞいてみると、

加山も波越もまだ戻っていない。

「さてはうまく行ったな」

と、いささか慰めていると、そこへ牢番同心がのっそりとはいって来て、妙な顔をして鬱いでいる。

「おい、どうした」

と、少し弾んだ声で慰問すると、牢番同心は、初めて気がついたように、