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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

妙なことを言うと思いながら、軽く、掌でたたいてみると、笛の中から細く巻いた一枚の紙片が出て来た。

羅門塔十郎は、最前、調べるうちにすばやく一読していたので今さら驚きもしなかったが、東儀与力をはじめ、波越も加山も、披かれたその文字へ思わず眼を瞠った。

それにはこう書いてあった。

かねての事、こよいを最後に、御談合参らせたく、九刻頃、そっと忍び行き候まま庭裏の木戸へお心たのみ置候

余事すべて、お逢いの上にて

八月十五日郁次郎

お雪の君へ

「どうです」

「ウーム成程」

「しかも男からその手紙を出した日は、お雪の殺害された十五夜と同日です。女は、男が何か最後の相談に来るというので、男の大事にしている『時雨』というその笛の中へ、手紙を巻きこんでおいたに違いない。たえず旦那という者の眼を怖れる囲い女には、ありがちな行いです」

「ご炯眼のほど驚き入りました。下手人はこの笛の持主、郁次郎という者に相違ござるまい」

「姿や顔容は、拙者よりはかえってそちらの方がおくわしいはずじゃ。では、今日はほかに急ぎの私用もござれば、これにて失礼いたします」

と、羅門塔十郎は、切り際よく別れを告げて、さっさと、草履を突っかけて、外へ出た。