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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

東儀は一も二もなく同意をして、すぐその奇計にとりかかる決意を洩らしたが、羅門はまた考え直して、それをやるにしても、一応は江漢先生の意見を求めるのが順当でもあり、また礼儀であろうと言い加えた。

智に富むばかりでなく、礼にも厚い彼の床しさに、東儀はいよいよ敬服して、

「では早速、手前は鶉坂へご相談に参り、帰り道には薬研堀の亀八を訪ねて来るといたしますから、羅門氏には、また、明日でもここへご足労を願われまいか」

奉行所へ立ち寄って、与力部屋のぬるい茶を喫むとすぐに、彼はこう告げて、忙しげに出て行った。

鶉坂の塙老人は、東儀与力の顔を見ると、相変らず、平和に恵まれた柔和な相をくずして、

「おう東儀か、どうじゃなその後は。……なに少しも探査が捗らんと申すか。それもよかろう、貴公たちには難事件にぶつかる程よい修業じゃよ。……わしか? ははは、わしは無為無病、いつもこの通り頑健じゃ。そのうちに、郁次郎も長崎表から帰るのでな。子息の帰るまでに、なるべく養生所の準備もしておいてやりたいし、帰ればすぐに、花世との婚儀じゃ。イヤ、これでなかなか忙しいんじゃよ」

と、頗るな機嫌である。