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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
世に「親馬鹿」という俗言があるが、老先生ほどな人物も、子に甘い余り、やはり盲愛の例に洩れないで郁次郎に騙されているをご存じないわい、と東儀は心の裡で、おかしくもあり気の毒にもなって、それには触れずに、掻いつまんで用件の意見だけを求めると、江漢老人はしばらく考えていたが、
「ははあ、それは上方流の羅門の献策とみえる。あの方法も、幾度も繰り返しては効がないが、江戸では珍しいから或いは意外な拾い物があるかも知れん」
と、可もなし不可もなしという口吻。
東儀は早速、その帰り足で、亀八の家を訪ね、万事手筈をきめて、いよいよそれから数日の後の博物会に「亀八作、蝋細工死人形」と題して出陳することになった。
それが、名月の夜に殺された女笛師鷺江お雪の死体を模型したものだという噂がぱっとひろまったので、今年の博物会では第一の呼び物となって、昌平橋際の火除地にできた小屋がけの会場は毎日割れ返るような人出である。
この博物会というのは、本草学者の田村藍水や鳩渓平賀源内などが、長崎の蘭人から伝え聞いた方法で、協力して明和以来すでに十何回を重ねている催しだった。後年の博覧会は、本邦では、平賀鳩渓のこの催しが濫觴となったものである。