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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
三月二十五日
あのお送りかえしになった作品集の中に二枚ヴォルフのがありましたね、海浜の子供のと、花の蕊の美しいのと。ヴォルフがこの作品集の中のでも、機械と人間のくみ合わせを扱っているところで先の写真帳の中のアメリカの作品のように、単なメカニズムの興味で、反射映像を弄んだりちっともしていないところ、やはり自然のよさがあります、ヴォルフ夫人も実によくとれているわ。変な不必要な肉体の露出なんかなくてね。しかも情愛がちゃんと肉体の理解にも及んで描写されていて。どうぞくりかえし折々タバコかユリのボンボンのように休みのため、瑞々しさのため、よろこびのため、御覧下さい。大枚八円也を奮発したのはそういうわけですから。
あのヴォルフの先の海浜にて、どうしたかしら。何だか見当らないようですけれど。カメラがこんなに生々としていて美を吸い出して来るとは美事ねえ。こういう文学がほしいことね。美しくて、その美しさを感じる故に自分も美しいものをつくりたいと思う、そんな小説がよみたいことね。明日午後おめにかかります。
三月二十五日 (消印)〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
三月二十四日 第十六信