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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
パリの労働者が労働者地区でだけ示威行進をしているというのも伸子にはわけがわからないことだった。それやこれやをみんな自分にわからせて、それからロンドンへ、と伸子は爪先に力のこもった状態だった。
素子の方は、大学の新学期がはじまるまえに、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ帰ろうと考えはじめている。ロンドンへ行って見たって同じことだ、と伸子を家族の間にのこして、自分だけモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ引かえそうとしている。いつまで、佐々の家族旅行にまきこまれるような形でいたって、というのが素子の心もちだった。伸子は自分の事情が、素子をそういう気分にさせていることに責任のようなものを感じ、ロンドンの街だけでも素子が見ておいた方がいいと主張するのだった。
「わたしは、あなたの姉さんみたいに、どこにいても何かが仕事の役に立つ、というようないい身分じゃないんでね。もう、こっちにだって、いすぎたぐらいのもんですよ」
素子は、食後のタバコをくゆらしながら和一郎に云った。
「もう、ぐずぐずしちゃいられない」
「どうして? まだ八月にはいったばかりよ」