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ふれんぞくさつじんじけん

不連続殺人事件

坂口 安吾

「日本小説 第一巻第三号~第二巻第七号」1947(昭和22)年8月1日~1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,047 字 · 322 页

青空文庫

ウチも戦争まえまでは自動車があったが、戦争以来は自動車どころか、村全体に一台の人力車すらもない。海老塚さんは変り者だから、母屋へは寝たがらずに、いつごろからか、釣殿専門に寝泊りするようになったのだ。時々急患がきて、医院から電話のくることがある。ゆうべも何かそんなことがあったのだろう」

「じゃア、八重にきいてみましょうか」

あやかさんは室内電話で女中の八重をよんだが、八重は用たしに村へ出ており、やってきたのは諸井看護婦であった。

「諸井さんは医院へ行らっしゃらなかったの?」

「ええ、今日は警察の御用で午ちかくまでかかったうえに、南雲さんが今朝から腹痛で、注射しているのです」

「お由良様が?」

「いいえ、南雲おじいさん」

「ゆうべ、医院に急患がありませんでしたか」

「ございません」

諸井看護婦は冷くジロリと一馬をみつめて返事をした。

「じゃア、あなたは医院の用か何かで、ゆうべ海老塚さんに会うようなことはなかったわけですね」

「ある筈がないと思いますが」

「海老塚さんは、ゆうべも釣殿へ泊ったのですか」

「今朝はこのウチにいらっしゃいましたわね。ゆうべのことは存じませんが」

諸井女史は冷たく横を向いてうそぶいた。