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ふれんぞくさつじんじけん

不連続殺人事件

坂口 安吾

「日本小説 第一巻第三号~第二巻第七号」1947(昭和22)年8月1日~1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,047 字 · 322 页

青空文庫

今の相場を知らないから売らない方がいいさね。昔は知らずに安く売って大損さ。今はもう、いくらも残っていないね」

「でも、探してくれないかね。あれば、むろん、ヤミの相場でゆずって貰うから」

「ヤミの相場をワシら知らんもの。なんでも百倍だから、百倍かネ」

「薬は昔から九層倍さ。食べ物の方は百倍かも知れないが、薬は百倍にもなっていなかろう。然しまア、値段はあとの相談にして、品物を探してくれないかネ」

棚の隅にボール箱の中へ昔の薬が一とまとめにしてあった。一つ一つ調べてみたが、カルモチンは、もうなかった。色々世話をかけたから、何か買わないわけにも行かず、胃腸薬だの虫下しだのその他二三品買って戻った。めぼしいものは何一つなかった。

「なんの薬だね、カルモチンてのは?」

「ねむり薬さ」

「そんなら、あんた、なんでも三月ほど前に、歌川さんのお客の、南雲さんさ、歌川さんの妹のお由良婆さまさ。あの人が来て、何やかや買って行ったね。そんとき、ねむり薬もあったそうな」

帰る途中で夜になった。ブナの森はあかりがないと足もとの危いところだから、いくらか残る明るさをたよりに、歌川家の山の裏手の間道をぬけると、三輪山へ行く山径に合流する。