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ふれんぞくさつじんじけん

不連続殺人事件

坂口 安吾

「日本小説 第一巻第三号~第二巻第七号」1947(昭和22)年8月1日~1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,047 字 · 322 页

青空文庫

それに、このオジイサンが、いつになく足腰がしっかりしてきましてね。少し無理かと思いましたが、千草の屍体があったというあたりまで出掛けてみようと、年寄の愚痴ですわねえ。それを承知で、こうしてムキに飛びだしてくるというのも、愚痴のほかに、年寄のせつない思い、さきほども申し上げました通り、今日できることが、明日、明後日には、もう出来なくなる、そういう無常が身にしみているからですよ。今しなければ、もう出来なくなる、とりかえしがつかない、死んでもいいから、思い残すことがないように、四ツ五ツの子供が明日の我慢がないよりも、もっと我慢がなくなるのですよ。あげくに、疲れはてて、この有様ですもの。まだこの春は、鉱泉まで、さのみ疲れずに歩くこともできたのに」

「そうそう。先日も鉱泉宿で、そのお話は承りましたよ。カルモチンを買いに行かれたそうですね」

「カルモチン? いいえ、そんな薬は」

と、お由良婆さまは、色をなして、打ち消した。

「この方は、どなたじゃ」

うずくまっていた老人がきいた。

「こちらは洋館のお客様で、矢代さんと仰言る方、ほら、京子さんと結婚なさった方ですよ」

「ああ、ああ、その御方か」