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ふれんぞくさつじんじけん

不連続殺人事件

坂口 安吾

「日本小説 第一巻第三号~第二巻第七号」1947(昭和22)年8月1日~1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,047 字 · 322 页

青空文庫

珠緒さんはいくらか吐き気がおさまってきたが、

「洗面器が汚物でいっぱいだから、とりかえて差上げなさい」

諸井看護婦がこう言ったので、女中は新しい洗面器に新聞紙をしいて持ってきて、汚物のあふれた洗面器は持ち去って洗い流した。

それから後は、もう殆んど吐かなかったから、この洗面器には小量の胃液が吐き残されているだけであった。

「お嬢さんは真水でウガイしたかね」

「さあ?」

女中は茫然として、ウロウロし、又、泣きだしそうになるばかりである。

「この白い粉はあんたが盆を運んできた時から有ったかね」

女中は益々泣きだしそうになった。血のめぐりの悪い娘なのだろう。オロオロして顔をあからめて、有ったか無かったか、分らないと言う。考えだし、追想を新にする頭のハタラキもないような、たよりない様子であった。然し、ふと顔をあげて、

「私の立去るとき、コップの水は八分目どおりありましたが」

と言う。

事実コップの水は八分目通りあった。このコップの水とヤカンを本署へ送ってモルヒネの検出が報告されたのは翌日のことであった。

諸井看護婦の話では、ただ背中をさすったぐらいのもので、酒の上の吐き気にすぎないから、一切薬は与えておらず、特別の手当は何一つ施さなかったと言う。