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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

「どうして、庄さん、どうしてそんな」

「おまえは、あんなに約束した、待っているって、おれの帰るのを待っているって、おれはそれを信じていたぜ、お前の云うことだけは信じられると思って、それこそ冷飯に香こで寝る眼も惜しんで稼いでいたんだぜ」

「だってあたし、どうして、……あたしちゃんと待ったじゃないの」

「じゃあ、あの子は、誰の子だ」庄吉はあからさまな怒りの眼で云った、「――地震と火事のあとで水害、困っているだろうと思って帰って来たんだ、ところがどうだ、断わっておくが云いわけはやめて呉れよ、おれは、みんな聞いたんだ、おまえの家が幸太の御妾宅だと評判されていたことも、そしておまえが幸太の子を産んだことも」

おせんは笑いだした。余りに意外だったからであろう、自分ではそんな意識なしにとつぜん笑いがこみあげてきたのだ、しかし表情は泣くよりもするどく歪んでいた。

「笑うなら笑うがいい、おまえにはさぞおれが馬鹿にみえるだろう」

「あたしが幸さんの子を産んだなんて、あんまりじゃないの、そんなばかな話、まさか本当だなんて思やしないでしょう」

「云いわけは断わると云ってあるぜ、自分で近所まわりを聞いてみるがいい、幸太がおまえの家へいりびたりということは、去年の春あたりもう耳にはいってた、それでもおれは大丈夫まちがいはないと思ってたんだ、――