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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

五

「二度あることは三度というが、こいつはことによると水が出るぜ」

そう云う者もあったが、老人たちはたいてい笑って、

「昔からなが雨に出水はないと云うくらいだ、心配するほどのことはないさ」

こんな風に云っていた。しかし、あとでわかったことだが、この豪雨は関東一帯に降ったもので、刀根川や荒川の上流から山水が押し出し、下総猿が股のほか多くの堤が欠壊したため、隅田川の下流は三日の深夜からひじょうな洪水にみまわれたのであった。

五

幸太郎は粥を喰べるようになってから却っておせんの乳房を欲しがった。起きているときはさほどでもないが、寝るときは握っているか口に含んでいないと眠らない。初めはとても擽ったくて我慢できなかったが、どうしてもきかないので少しずつ触らせているうち、慣れたというのだろうか、その頃ではさして苦にもならず、どちらかといえば自分から与えてやるようにさえなっていた。

「吸っちゃあいやよ、幸ちゃん、吸うと擽ったいからね、ただ銜えてるだけ、そう、こっちのお手々もそうやって握るだけよ、乳首をつままないでね、ああちゃんとっても擽ったいんだからね、そうそう、そうやっておとなしくねんねするのよ」