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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
後篇
一
明くる朝、子供を負って洗濯物を干していると、庄吉が来た。彼は歪んだ皮肉な顔つきで、道のほうからこっちを眺めていた。
それからそばへ寄って来た。――おせんはできるだけのちからで微笑し、相手の眼をみつめながら吃り吃り云った。
「ごめんなさい、庄さん、あたしゆうべ、捨てにいったのよ」
「――でもそこに負ってるね」
「いちど捨てたんだけれど、可哀そうで、とてもだめだったの、庄さんだって、とても出来ないと思うわ」
「――わかったよ、証拠をみればいいんだ」
「ねえ、あたしを信じて」おせんは泣くまいとつとめながら云った、「――本当のことはいつかわかる筈よ、あたし待ってるわ」
庄吉はなにも云わずに踵を返した。くるっと向き直って道のほうへ歩きだした、おせんはふるえながらそのうしろへ呼びかけた。
「庄さん、あたし待っててよ」
しかし彼は振向きもせずに去っていった。
後篇
一
十二月にはいると間もなく幸太郎が麻疹にかかった。その十日ほどまえから鳥越のほうに、疱瘡がはやると聞いたので、御蔵前にある佐野正の店へ仕事のために往き来するおせんはそのほうを心配していたし、病みだした初めのうちもてっきり疱瘡だろうと思ったのであるが、五日めになって医者が発疹のもようをみたうえたぶん麻疹だろうと云い、そのとおりの経過をとりだしたのでいちおう安心した。