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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
四
お常はこう云って裏へ去った。
四
勘十はこの話を聞いて、梶平へでかけていった。杉田屋が大工の頭梁なら、梶平に消息を知った者がいるかもしれないと思ったのだ。友助に話してきいて貰うと、主人の久兵衛が知っていた。けれどもそう親しくはなかったもようで、頭梁の巳之吉は火事のとき腰骨を折り、女房を伴れて水戸のほうへ引込んでしまった。が、その後は便りがないからわからないということだった。
「ところがわかっていねえというんだから手紙の出しようもねえ」帰って来た勘十はお常にこう云った、「――幸太てえ若頭梁もいたそうだが、これもあの晩どっかで死んだらしいってよ、おせん坊もよっぽど運がねえんだな」
こんなことがあってまもなく、神田川の落ち口に地蔵堂が出来た。その付近で火に焼かれたり川へはいって死んだりした者の供養のためで、浅草寺からなにがし上人とかいう尊い僧が来て開眼式がおこなわれ、数日のあいだ参詣の人たちで賑わった。――おせんもすすめられて、お常といっしょに焼香をしにいった。そしてあれ以来はじめて大川をまぢかに眺めた。
「此処に橋があればよかったんだ」
参詣人のなかでそんな話をしている者があった。