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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
四
「あたしが死んだらすぐあとを貰って下さい。そしてどうかおせんはうちで育てて下さい、杉田屋さんへは、どんなことがあっても遣らないで下さい、おっ母さんはなんどもなんどもそう念を押した、おれもそれを聞いているんだ、おせん、もうおまえも十七だ、これだけ話せば、おれが縁談を断わった気持もわかって呉れるだろう」
「わかってよお祖父さん」おせんは指尖で眼を拭きながら頷いた、「……そんな話を聞かなくったって、あたし杉田屋へお嫁になんかいかないわ、だって」
「ああわかって呉れればいいんだ、金があって好き勝手な暮しができたとしても、それで仕合せとはきまらないものだ、人間はどっちにしても苦労するようにできているんだから」
四
いろいろなことがわかった。母親が死んだあと、父やお祖父さんが杉田屋へやりたがらなくなったこと、あんなに親しくしていたのに、杉田屋の小父さんは決してうちへ来なかったこと、そして父が亡くなるとすぐお祖父さんが店をたたんでこっちへ移転したことなど……これらのなかでいちばんおせんの胸にこたえたのは、「……どんなことがあってもおせんを杉田屋へ遣らないように」という母親の言葉だった。