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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
七
「そうだったのかい、あたしはまた杉田屋さんでなにもかもして呉れるんだと思って安心していたのだよ、それじゃあなんとか考えなくちゃあいけないね」
「どんな苦労でもするわ、おばさん、あたしよりもっと小さい子だって、もっともっと辛い気の毒な身の上の人がいるんだもの、十八にもなったんだから、たいていのことはやってゆけると思うの」
「そうともさ、人間そう心をきめればずいぶんできない事もやれるものだよ、けれどもなにごとも取付が肝心だから、途中でいけなかったなんていうことになると虻蜂とらずだからね、あたしもよく考えてみて、それからもういちど相談しようよ」おらくはこう云って、そのときは帰っていった、「……なにが野なかの一軒家じゃなし、近所だって黙って見ちゃあいないからね、決して心配おしでないよ」
七
おせんは足袋のこはぜかがりを始めた。お針の師匠にも話してみたのだが、まだ賃縫いをするには無理だというし、洗濯や使い走りでは幾らのものにもならない。結局おらくの捜してきて呉れたのがその仕事だった。その頃はまだ足袋は多く紐で結んだものだったが、上方のほうで仕出したこはぜが穿き脱ぎに手軽なのと穿いたかたちが緊まるのとでその年の春あたりから江戸でも少しずつ用いはじめていた。