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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
三
三
霜月はじめの或る日、向うの飛脚屋の店にいる権二郎という若者が、買い物に出たおせんのあとを追って来て手紙を渡した。「杉田屋にいた庄さんから頼まれてね」と、彼はにやにやしながら云った。
「まあ」おせんはかっと胸が熱くなった。
「……どこで、この手紙どこで頼まれたの」
「大阪でひょっくりぶっつかったんだ、そうしたらこれを内証で、おせんに渡して呉れと云われてね、元気でやっているからってさ」
「そう有難う、済みません」
権二郎はまだなにか云いたそうだったがおせんは逃げるように彼から離れていった。……山崎屋はさして大きくはないがともかく三度飛脚で、大阪の取組先があり若者も五人ばかり使っていた、権二郎はその一人だが、用達には誰よりも早く、十日限、六日限などという期限つきの飛脚は彼の役ときまっているくらいなのに、酒癖が悪くて時どき失敗し、店を逐われてはまた詫びを入れて戻るという風だった。「どうして庄さんはあんな人に頼んだのかしら」おせんは買い物をして家へ帰るまでそれが気になった、「……また酒にでも酔って、近所の人にでも話されたらどうしよう、そんなことのないようにしては呉れたろうけれど、あの人の酒癖を知っていたらよして呉れればよかった」