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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
六
その茶屋の裏庭のすぐ向うにかなり大きな沼があり、そのまわりで子供たちが魚を掬って騒いでいる、幸太郎はそこへいっていっしょに遊びたいらしい。おせんもそうさせてやりたかったのだが、松造は今日のうちに古河へ帰るということで、悠くり休むひまもなく立上った。
平右衛門町へ帰ったのは日盛りのいちばん暑い時刻だった。そして家へはいると、土間へ膝をつき上り框に凭れかかって、乞食のような姿でおもんが眠っていた。
六
それがいつかの女だと知ると、松造は入りかけた足を戻してこのまま帰ると云った。おいくの顔にも露骨な侮蔑の色があらわれ、わざとらしく子供の手を取ってさっと先へ出ていった。まるでとりなしようもない、おせんは、やむなく夫婦の荷包を取って来て渡した。松造は紙にくるんだ物をおせんに与え、――贅ったことはいらないからこれで友助のところへ送り膳を届けるように、また余ったのはその女にもやって早く出てゆかせるように、さもないと幸太郎のためにもよくないから、そういうことを低く囁いて去っていった。
おもんは病気にかかっていた。汗と垢とで寄りつけないほど臭い躯を、どうにか上へあげ、べとべとに汚れたぼろをぬがせて、ともかくも膚を拭いてやろうとしたが、余りに痩せ衰えたあさましい裸を見ると、おせんは総身にとりはだの立つほど慄然とした。