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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
じつはその少しまえ、幸太郎が乳を貰っていた友助の家で、その子の和助というのが麻疹にかかっていた。乳が同じであるし、生れ月も近いしおまけに看病のしやすい年恰好だから、本当ならうつして貰ってもさせるところなのだが、和助のは性が悪いらしいということで、向うから近づかないようにと注意されていたのである。――そんなことから麻疹だとわかってひと安心しながら、もしやその性の悪いのがうつっていたのではないだろうかとも思い、発疹が終って熱のひくまでは痩せるほど気をつからせてしまった。
幸太郎は半月ほどできれいに治ったが、その前後からおせんは友助夫婦のようすの変ったことに気づいた。和助という子は生れつき弱いところもあったとみえて、幸太郎がよくなってからも唇のまわりや頭などに腫物のようなものが残り、それがなかなか乾かないで困ると云っていたがそんなことを口実のように、夫婦ともおせんから遠退こうとする風がだんだんはっきりしだした。かれらとは水で亡くなった勘十夫婦のひきあわせで、知りあい、幸太郎のための乳から始まってずいぶん世話になってきた。友助というひとは材木問屋の帳場を預かるくらいで、くちかずの少ない律義な性分だし、女房のおたかもお人好しと云われるくらい、善良でおとなしかった。