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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
「厄介をかけた、――じゃ……」
そのまま出るようすである、おせんは思いだして風呂敷包をと云った。松造はむぞうさにそれはまた次に来たときにしようと答えた。そこでおせんは幸太郎を抱き、戸口へ送りだしながら思い切って訊いた。
「あのう、あたしこの家にいてもいいんでしょうか」
松造は振返ってけげんそうに、こっちを見た、ゆうべとげとげしくみえた眼が、今はもっとするどく尖り、こちらの心を刺すかのように光っていた。
「この家は友さんという人が、材木の残り木で建てて呉れたものだそうだ、それから水で毀れたのを直して、おまえに住まわせて呉れたものだそうじゃないか、――そうとすればおまえの家だ」
「それじゃ、あの、あたし、いてもいいんですわね」
松造は茶色になった萱笠を冠った。
「ときどき泊らせて貰うからな」こっちは見ずにこう云った、「――その代りこんど来るときは、自分の喰べる物は持って来る」
彼が去ったあと、おせんは幸太郎を抱いたまま嬉しさにこおどりをした。もう大威張りよ幸ちゃん、これ、ああちゃんと幸坊のお家になったのよ、ごらん、幸坊は三つで家作もち、えらいのねえ。――幸太郎はわけのわからぬままにおせんの首へ抱きつき、おせんのはしゃぐのに合わせてきゃっきゃっと躍り跳ねた。