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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
それも十六や七の本当ならおぼっこい年をしてえてさ」
その声には覚えがあった。振返って慥かめるまでもない、よく話に寄った女房のひとりで、亭主が舟八百屋をしているお勘という女だ。おせんはかっと頭が熱くなった、自分に当てつけているのである、此処に自分がいるのを見て、わざわざ聞えるように云っているのだ。そしてかれらが来なくなった理由もそこにあったのである。――おそらく友助のほうから伝わったに違いない、それも庄吉に同情するあまりのことだろう、ほかにわる気がある道理はない、わかる時が来ればわかるのだ。こう思って、おせんはじっと自分をなだめていた。しかしお勘のたか声はさらに続いた。
「ところが恥を知らないくらい怖いことはない、赤ん坊が生れたと思うと男に死なれちまった、たいていの者ならいたたまれない筈だが、火事で町のようすが変り、知った者がいなくなったのをいいことに、しゃあしゃあと元の土地にい据わって約束の相手の帰るのを待っていた、そして相手が帰って来るとこの子は自分の子じゃあないとさ、ちゃんとおまえを待っていたってさ」
「云えたもんじゃあないよねえ」こう合槌をうつのが聞えた、「――それも二十にもならない若さでさ、よっぽど胆が太いかすれっからした女なんだね」