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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
「よけいなお世話じゃないか、火つけ泥棒をしたわけじゃあるまいしなんだい、自分じゃ鼻の曲るような臭いことをしていて、ひとの段になるとお釈迦さまみたいな口をきくやつさ、なにを構うもんか、大威張りでどこでものしまわってやるがいいんだ」
おせんはむろん彼女の誤解を正そうなどとは思わない、けれどもそういうことを聞いているのは楽ではなかった。なるべく話題を変えるように、おじさんはどうしているか、躯の具合が悪そうだが養生をしたらどうか、そんな風に、こちらから問いかけることに努めた。おもんはそういうことにはなんの興味もないらしい、すてばちな投げた調子で、馬鹿にしたような生返辞ばかりしかせず、ついには欠伸をして寝ころがるのがおちであった。
「きれいな顔をして乙に済ましたようなことを云ったって、人間ひと皮剥けばみんなけだものさ、色と欲のほかになんにもありゃしない、お互いが隙を狙って相手の物をくすねようと血眼になっているんだ、ばかばかしい、けだものならけだものらしくするがいい、おてえさいを作ったって見え透いてるよ」
酔っているときはそんなように世間や人を罵った。小紋の小袖に厚板の帯をしめ、幸太郎に玩具を買って来ることなどもあるし、つぎはぎの当った男物の布子に、尻切れ草履で来るなり、なにか喰べさせて呉れと云うこともある。