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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

……その祝いの三日めのことである、店を早くしまって、幸太郎に小僧をつけて出してやり、自分も新しい橋を見にゆくつもりで、着替えをしていると客が来た。土間が暗くなっているのでちょっとわからなかったが、立っていってみると庄吉であった。

「ひとこと詫びが云いたくって来たんだ」

彼は、こう云って、こちらを見上げた。一年まえに、見たきりだが、彼はあのときより少し肥り、酒を飲んでいるのだろう、顔が赭く膏ぎっていた。おせんは、平気で彼を眺めることができた。ふしぎなくらい感情が動かなかった、そうしたいと思えば笑うこともできそうであった。

「あたしこれから出るところですけれど」

「ひとことでいいんだ、おせんさん」庄吉は慌てた口つきで云った、「――おれは去年の暮に水戸へいってきた、杉田屋の頭梁が亡くなったんでね」

「杉田屋のおじさんが、――おじさんが亡くなったんですって、……」

「いまいる山形屋とは手紙の遣り取りが続いていたんだ、それでおれが名代でくやみにいって来たんだが火事のとき傷めた腰が治らず、そこの骨から余病が出て、とうとういけなくなったということだ」

「おばさんは、お蝶おばさんは」