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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

「ひょんな噂か……」幸太はぐらっと頭を垂れた、「……そうだ噂なんか構わないとは、おれに云えることじゃあない、世間なんてものは、平気で人を生かしも殺しもするからな、わかったよ爺さん」

「悪くとって呉れちゃあ困るぜ幸さん、おまえだって杉田屋の名跡を継ぐ大事なからだ、嫁でも取って身が固まったら、また元どおり来て貰いたいんだ、ゆくさきおせんのためにも、ちからになって呉れるのは幸さんだからな」

「遠のくよ、爺さん」幸太は頭を垂れたまま独り言のように云った、「……悪い噂なんぞ立っちゃあ済まないからな」

「それでいいんだ、そこでまあ一杯いこう、おせん酒が冷えているぜ」

なんというしっこしのない幸さんだろう、おせんはこの問答を聞いて歯痒くなった。もっとてきぱきした男だった。向っ気の強い代りにはわかりも早く、諄いところなどは薬ほどもない人だったのに、「……どうかしているんだわ」酒の燗を直しながら、おせんは苛いらしい気持でそう呟いた。……幸太はそれから半刻あまりして帰った、ひどく酔って、草履を穿くのに足がきまらないくらいだった。彼が外へ出て二三間いったとき、

「おや若頭梁じゃあありませんか」