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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

あたりに置いてある荷物はみなふすふすと煙をあげ、それが居竦んでいる人々を焦がした。積んである石も、地面も、触っていられないほど熱くなり、水を掛けるとあらゆる物から湯気が立った。そうだ、おせんは初めて気がついた。彼女はいつか幸太の刺子半纏を着せられ、頭巾を冠っていた。その上から、幸太が河の水を汲みあげては掛けていて呉れたのだ。

「苦しくなったら地面へ俯伏すんだ」と幸太がどなった、「……地面へ鼻を押しつけて、そこのいきを吸うんだ、火の気も煙も地面まではいかないから、もうひとがまんだ」

おせんはとつぜん中腰になり、すぐ脇に積んである石の蔭を覗いた。さっきから赤子の泣くこえが耳についていた、ひとところで、少しも動かずに、たまぎるような声で泣いている、あんまりひとところで泣き続けるので、堪らなくなって覗いてみた、石の蔭には大きな包が二つあり、その上に誕生には間のありそうな赤子が、ねんねこにくるまって泣いていた、まわりには誰もいない、ねんねこも包も、ところどころ焦げて煙をだしている、おせんは衝動的に赤子を抱きあげ、刺子半纏のふところへ入れて元の場所へ戻った。

「ばかなことをするな」