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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

よく眼をあいて見ろ」

「うむ、なるほど」

「何が成程だ。相かわらず、いつも、呑ンだくれていやがるな」

「よけいなお世話だ、やい、安」

「なんだ」

「てめえ、うちのやつに頼まれて、今朝、何処へ駕をやったんだ。あの、色の生ッ白い武士を乗せてよ」

「知らねえ」

「ふざけるな、相棒の兼に、聞いて来たんだ」

「あいつ、もう、しゃべったのか」

「ふてえ奴だ。ぬかさなけれや、てめえと、一騎打だ。さ、首を洗って、外へ出ろ」

「いいじゃねえか、何も、兼に話を聞いているなら」

「いや、てめえの方が、詳しい話を知っているはずだ。去年の十月頃に、問屋のお役人から、宿触れの出ているお尋ね者を知っているか」

「塙郁次郎とかいう、江戸で、女笛師を殺した下手人だろう」

「そうよ」

「それがどうしたんだ」

「けッ、頓馬なやつッていうものは、しかたのねえもんだ。てめえの肩に乗せて、五里も十里も、歩いていながら、気がつかねえのか」

そう言われて、安も、はッと何か思い当ったふうだった。しかし、そのために、彼に打明ける気にはよけいになれなかった。自分の口から密訴すれば、その報酬も自分のものだ。

「やい、ぬかせ」

「知らねえッていうのに、くどい奴だ」