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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
「こう山ン中で見直すと、何だかよけいに美しいな」
「これ! 駕屋」
「ヘイ」
二人は、吃驚したように振り向いた。
「――な、なんでえ、てめえはさッき坂本で休んでいた旅商人じゃねえか。侍みてえな声を出しゃあがって、恟ッとするじゃねえか」
「ははは、どうも相済みません」
と、八弥は煙管を咥えながら屈み腰に、
「おそれいりますが、お火を一つ」
「おまけにご拝借ときやがったぜ。図々しいやつだ」
借りた燧打石で、すぱっと吸いつけて、
「今のお女中は、含月荘へ行ったんでございましょう」
「よく知っているな」
「へい、てまえも、御番士方にお出入りをしておりますんで。――だが駕屋さん、あれや山のお屋敷じゃ見たことのない女ですぜ」
「江戸表の上屋敷から使いに来たという話だから、多分、あっちの者だろう」
「それにしても、女一人の使者というのはおかしいじゃございませんか。どういう用事で来たんでしょう」
「なあ、相棒、なんだか小さな筥を持っていたようじゃねえか」
「む、香筥のような……。そいつばかりを、ひどく大事そうに抱えていたよ」
駕屋に別れると、八弥は足を早めて、遅れた距離を取り返した。街道とちがって、こういう山道では、先に自分の姿を気づかせないということは至難だった。