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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

てあるではありませんか」

「…………」

郷左衛門は、わが子の饒舌を、黙って、睨みつけていた。

「だが、これと違って、昨日の指は、斬ッたばかりのように生々しかった。それに、これは人さし指だが、あの方は、たしか中指で」

「主水」

「だめですよ父上、そんな難しい顔をしたって」

「貴様は、見たのか」

「はい、ちょっと、失礼いたしました」

「どうもしかたのない奴だ。しかし、見た者がおまえだからよかった」

その、ほっと吐いた溜息のあいだに、玉枝のことばがキビキビとはいった。

「えっ、また後の指が着いたんですって。――このあんばいでは思いのほか、早くすべてが片づくかも知れませぬ」

「どうか一日もはやく、そうしたいものだ」

「私も江戸表の方が気がかりですから、一刻もはやく、帰るといたします。では、私の持って来た分の金子は、どうぞ後から為替でおねがいいたします」

「よろしい、金子の方は、相違なく送るであろう」

主水は物好きに、父の隠しておいた文庫の中の小筥を、もう一つ出して、蓋を取ってそこへ並べた。

二本の女の指!

生々しい中指と、血の干乾びた人さし指。

「あと、もう二本でございますね」