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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

――だが、ゆうべは虚無僧、今朝は女の旅姿、それに、声も少しちがっていたが」

馬蹄のほこりを浴びながら、韋駄天と追ってゆく加山耀蔵。

彼もまた、波越八弥と同じような疑問にぶつかった。――二人の花世? ゆうべの花世? 今朝の花世?

それとも、すべてが同一人なのかと。

必死になって、十町あまり追いかけた。しかし、先は馬、こっちは徒歩である。殊に女の手綱があざやかなので遂に見失ってしまった。

「加山!」

どんと、肩を支えられて、

「あっ」

「どこへ参るのだ」

「これは、羅門氏でしたか」

息を喘ぎながら見廻すと、ゆうべの宿、青砥屋を立って来た東儀与力以下の人々と軍鶏籠とが、列をつくって、眼の前をふさいでいた。

「ただ今、この道筋を、若い女が、馬に乗って逃げたはずですが」

「ウ、見かけたが、それがどうしたのですか」

「怪しい女です。花世かも知れません。五、六名ほど手をお貸し下さるなら、すぐに追いついて、引っ捕えて参ります」

「待て待て」

と、羅門は逸り立っている彼の袖をつかんで、

「貴公は、何か手功焦りをしているな」

「ど、どうしてですか」

「上ずッておる。まあ落着き給え。――拙者もたしかに今の女を見かけたが、花世とまるで別人だ。