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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「こらっ、起きないかッ」

肩に足をかけて、ぐりぐりと小突くと、男は、けろりと見上げて、東儀与力と同じように、拷問道具へ腰を下ろした。

――蟇のように口をむすんでいる。

まったく不解な男だ。古沼からひきずり出した山椒の魚の化け物みたいな人間だ。神経の反射とか、感覚とかいうものがまるでない。

(この野郎、拙者を呑んでかかっているな。面白い、唖にもなれ、聾にも化けろ、おれも南町奉行所に彼ありといわれた東儀三郎兵衛だぞ)

肚にたたみながら、しばらく、睨みくらべの形である。

「これ、町人。貴様は手足の皮があつい所を見ると、田舎者に相違ないが、どこの国の者だ。黒焼売りか、百姓か」

「…………」

蟇然とした口は、相変らず、への字のままである。

「ゆうべの鎧櫃には、何がはいっていたか、知っているだろうな」

男は、眼と鼻をクシャクシャと歪めて、両方の腕を天井へ上げた。喉仏の見えるような大きな口から、欠伸が出た。

東儀与力は、じりじりする忿怒を抑えて、

「おい大将、唖聾のまねなんざあもう古手だぞ。この石倉の中の道具は何に使用するものか知ってるだろう。そんな無駄な世話を焼かすもんじゃない。