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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「そいつが食わせものだ」

と、老先生は、千吉のことばを切って、

「――分った。あとは現場に当ってみよう」

「では、すぐにお供を」

「イヤ、ちっと待っておくれ」

と、老先生は方丈の窓から、寺の室へ、

「花世、花世」

と、低い声で、呼んだ。

「はい」

と、花世の顔が、すぐに、そこの窓に見えた。

「また一事件もちあがった。わしはすぐに、行かねばならん。最前、頼んだものは、まだ書けぬか」

「書いておきました」

「オオ、これか」

と、窓の間から受け取って、

「舟辰」

「へい」

「千吉にも、申しつけることがある。今日より、向う八十日間のあいだ、この花世どのの一身を、おまえ達ふたりに預けるぞ。命がけで、間違いのないように、守ってくれい」

「…………」

二人は、返辞を忘れていた。

「どうじゃ」

「…………」

「嫌か」

「……不思議だあ」

と、呻くように、二人が、同時に言った。

「なにが」

と、老先生は、彼等の顔つきが、変なのに気がついた。

「なにが、そんなに、不審なのか」

「でも、そのお嬢様は、いつぞや品川沖でふん捕まえて、また、悪党どもに奪り返された、あの玉枝っていう、凄い女と、瓜二つじゃございませんか」