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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

また、柵から手を伸ばして、石楠花の葉を五枚ほどり取った。それは、口のなかで噛みしめていると、何か、非常に力になる気がした。

――岩壁の暦、二十六。

「やっ、まだ生きてるぞッ」

「えっ、生きてる?」

「ほれ、ごらんなさい。主水様」

「なアるほど、眼ばかりぴかぴかさせておるな」

「強情な奴ではある」

「飢え死になどは面倒くさい。父上に言って、翌日は、長槍を持って来て、外から突き殺してしまったがいい」

「槍では、奥へ逃げると、届きません」

「では鉄砲がよかろう」

「そんなに、楽に殺しては、この後の見せしめになりません」

「なに、もうたいがい、見せしめにはなっている。翌日は、わしが撃ち殺してやる」

郷左衛門の子息、大村主水の声だった。四、五人の山侍たちと、中を覗いて、こんなことを言いながら立ち去った。

その晩は、電光雷鳴、山も谷も樹木も、押し流されるような暴風雨だった。

――岩壁の暦、二十七。

颱風の後のせいか、めずらしく、霧がなく、谷間にも少し陽が射した。

「やっ?」

眼をさますと共に、彼は、気絶するほど吃驚した。

誰だ? 誰の仕業だ?

鉄柵の内側に、何者か、一箇の白い握り飯を入れて置いてある。