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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「なるほど、生きてるぞ」

「執念ぶかい奴だ。――では殺ってしまおうか」

「鉄砲は」

「三挺持ってきた」

「ここへ並んで、筒口を揃えろ」

大村主水を先頭にして、ぞろぞろと尾いてきた含月荘の山侍、ざっと、十人ほど。

中の三人が、鉄砲の筒をならべて、折敷に構えた。三ツの火縄が、牢の中にいる耀蔵の方からも赤く見えた。

「駄目だ!」

耀蔵は立った。

「老先生ーーっ。おゆるし下さい。遂にご使命を果たさず、加山耀蔵はここで殺されます。この無念は、夢枕に立って、お詫びをつかまつります」

と、潸然と泣いて顔を掩った。

「見ろ、何か、喚いているぞ」

「発狂したんだろう」

「撃てッ」

と、主水が命令した。

作兵衛小屋

どかん! と並んでいる銃身の筒口から、三つの弾が、同時に、鳴った。

だが――岩窟の中の耀蔵は、仆れなかった。一発は彼の脚を掠め、一発は、岩窟の肌にぷすッと通った。――そしてあとの一発は、不発だった。火縄もろとも、銃は侍の手を離れて、宙へ躍り上がっていた。

「やッ、斬られた!」

血汐である、血煙である。夕闇なのと、深い霧で、よくは分らないが、温い血液のかたまりが、ぱッと、側の者へ刎ねかかった。