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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

この頃、急に評判が立った。――よく中たる、実によく中たる。そういう噂で、ひどく流行りだした乾坤堂という売卜者。

毎日は出ないが、三の日、五の日、七の日に出る。場所は蔵前の閻魔堂の境内。九尺二間の借家が出張所で、今日は、月の三の日にあたるので、もう朝からだいぶな客があった。

「先生、もう今日はこれぐらいでいいでしょう」

下足番の男も疲れたとみえて、暮六刻が鳴って客足が少し途切れたところで、こう言い出した。

「開けていたひにゃ、限りがありませんぜ」

「そうだなあ。七刻仕舞いが規則だが……。きょうはだいぶ見料が上がった。早仕舞いとして、一杯飲もうか」

「たまには、そんなことがあって、ようがすよ。先生のように、金を儲けちゃ、仕舞い殺しにするばかりが能じゃありませんぜ」

「あははは。では、ぼつぼつ片づけるか」

と、筮竹を袋に入れかけた時である。

「あの……乾坤堂の易者様は、こちらの先生でございますか」

門に、女の声がした。

下足番の男は、舌打ちをして、

「もう今日は、仕舞いました。また明日じゃねえ、次の、五の日にでもおいでなせえ」

「あ……これこれ」

と、奥の机から首をのばした乾坤堂は、四十をやっと、二つか三つ越したくらいな年配、総髪をきれいに後ろへ撫で、髯の手入れもとどいて、すこし赭ら顔に、鼈甲ぶちの眼鏡をかけている好色家らしい